おじさん | 「今日は。道夫ちゃんいるかい。」 |
道夫 | 「あ、三鷹おじさん、よくいらっしゃいました。
さあどうぞお上がり下さい。」 |
おじさん | 「澄子さんは … … 。」 |
道夫 | 「デパートへ買物に出かけました。もう帰る
頃ですが。」 |
おじさん | 「いい天気だから、電車も町も人でいっぱいだよ。」 |
道夫 | 「おじさん、今日はどこかのお帰りですか。」 |
おじさん | 「うん、おまえのおじいさんのお墓参りに行って来た
んだよ。お彼岸の頃病気で行かれなかったんで、
今日そのお詫びをして来た。」 |
道夫 | 「えらいですね、おじさんは。おじいさんが亡くなって
からもう20年にもなるのに毎年田舎へお墓参りに
行くなんて。」 |
おじさん | 「あたりまえじゃないか。毎年お墓参りに行くだけ
じゃない、毎朝仏壇を拝んでいるよ。」 |
道夫 | 「そうですか。」 |
おじさん | 「そういえば、この家には仏壇がないんだね。」 |
道夫 | 「ええ。」 |
おじさん | 「神棚もないね。」 |
道夫 | 「僕はあまり宗教に興味がないし、それに澄子は
クリスチャンですから。」 |
おじさん | 「澄子さんは日曜ごとに教会へ行くのかい。」 |
道夫 | 「ええ、行くようですよ。」 |
おじさん | 「えらいものだね、クリスチャンというのは。」 |
道夫 | 「でも、この前、アメリカ人の友達に聞いたら、毎週
必ず教会へ行くアメリカ人は少ないそうですね。
日本のクリスチャンは数が少ないけれどみんな熱心
だそうです。」 |
澄子 | 「ただいま。」 |
おじさん | 「お帰りなさい。お邪魔していますよ。」 |
澄子 | 「いらっしゃいませ。」 |
道夫 | 「買物はどうだった。」 |
澄子 | 「済みましたけど、デパート、ずいぶん込んでました
わ。」 |
道夫 | 「デパートは儲かるだろうね。」 |
おじさん | 「しかし、ずいぶん宣伝をしているから、宣伝費も
かかるだろう。」 |
道夫 | 「そうですね。あれでも採算は合うんでしょうが、
あまり儲からないかもしれませんね。」 |
澄子 | 「デパートに限りませんね。この辺のお店もいろいろ
客寄せに苦心しているようですよ。」 |
道夫 | 「そう、そういえばこの間計算機がお化粧の仕方を
教えていたよ。」 |
おじさん | 「それ、どこのデパートだい。」 |
道夫 | 「新宿のデパートだったかな。」 |
おじさん | 「おじさんもこの間銀座のデパートで計算機を使って
いるのを見たよ。」 |
澄子 | 「そう、私は計算機になんかあんまり興味がないけど、
今の人はずいぶん計算機を信心しているようね。
私がクリスチャンだなんて分かるとよく変な顔を
するのに、その人がまるで計算機教信者みたいな
事を言うんですもの。おかしくなっちゃうわ。」 |
おじさん | 「そう。今の人間は少しおかしいよ。神様を否定して
いながら、信じる物がなくなると、今度はまた
新しい神様を作ってそれに気が付いていないんだ
からね。おじさんが毎朝仏壇を拝むのと計算機を
有難がるのはあまり違いがないんじゃないだろう
かね。」 |